1.3 入学式

何気なしに、入学式の式次第を取り出した。

【猫沢大学 入学式】
1.日時:4月7日 午後3時〜4時
2.場所:ラグドールキャンパス 大ホール
3.式次第
・開式の辞
・学長訓示
…………

隣のベンチでは、仔猫たちが楽しそうにじゃれ合って遊んでいる。

ひいおじいちゃん! 一緒に鬼ごっこしようよ!

そうか、ベレー帽の猫は、おじいさんではなくて、ひいおじいさんだったのか。何歳ぐらいなんだろうか。

あなたは何のために生きてるの?

もし、この仔猫たちに、そして、ひいおじいさんに、こんな質問をしたら、一体どんな風に答えるのだろうか。

んん? あれ? ちょっと待てよ…………

何かが変だと思って、もう一度、入学式の式次第を見返した。

場所:ラグドールキャンパス?

ニャンコ科学部はシャムキャンパスにあるんじゃなかったかしら?試験を受けたのもシャム、実際に通うのもシャム、そして、いまワタシが居るのもシャム……

だけど、入学式はラグドールキャンパスで行われる?

慌ててミャオフォンの時計を見ると、時刻は午後2時15分。…………まずい、場所を間違えている。

全身の毛が逆立ち、尻尾が膨らんでくるのが分かった。

*

タクシーでラグドールキャンパスに着いたワタシは、大急ぎでタクシーの支払いを済ませ、息をせき切って入学式の会場であるホールへ走った。音を立てないようにそっと扉を開け、忍び足で会場に潜り込む。

ホールに入ると、フロアは猫で埋め尽くされていた。全部で100匹ぐらいはいるだろうか。壇上では、スーツを着た猫がスピーチをしているが、周囲の鳴き声が騒がしくて、よく聞き取れない。ある猫は毛づくろいをし、またある猫は背伸びをし、という感じで、めいめいの猫が整列せずに自由に振舞っていた。

「……現代社会の抱える諸問題の解『マーォ ニャー!』……持続可能な社会の実現に向け『シャー!ギニャー!』……次世代の猫社会『ゴロゴロ〜グルグル〜』……を担っていく諸君に対する期待は『ミャオ〜!』」

良かった! これなら遅れたことはバレないだろう。

「……を祈念して、私の式辞とさせて頂きます。本日はご入学、誠におめでとうございます」

「入学式は以上となります。続いてオリエンテーションのご案内です。午後4時より、学部ごとにオリエンテーションを実施します。オリエンテーションの実施場所につきましては、会場の入り口横に掲示してありますので、新入生の皆さんは退場する際、必ず場所を確認するようお願いします」

案内に従って、他の猫たちと一緒にホールから退場した。

オリエンテーションの会場に行く前に、トイレに立ち寄った。さっきからずっと我慢していたのだ。ふぅ〜、ようやく落ち着いて、汗も引いてきたよ。初日からアクシデントがあったけど、なんとかリカバリーに成功した。安堵からか、トイレの水を流した時に、無意識に足が砂をかける仕草をしてしまった。必要ないと分かっていても、体が勝手に反応してしまう。遺伝子に刻み込まれている本能というものは恐ろしいもんだ。