3.2 長ぐつをはいた猫

そのちょうど1週間後。ワタシ達は2回目の講義を受けていた。

今日は『強運力』の講義となる。だが、講義の前に、課題を提出してくれ。それぞれの予想を教えるように」

「7番ワンダフルライフ、1番ミリオンダラーベイビーで決まりです」

なるほど、ヨシムネは本命の予想じゃな。チャビーはどうだ?」

「8番ベターザンイクスペクテッド、15番ナッシングスペシャルで勝負します〜」

かっかっか! そう来たか。まあ、当たったら万馬券じゃな。ネコ美はどう予想した」

「3番ビューティフルアフェアー9番エメラルドグリーンです」

「よし、分かった。その予想で、わしが馬券を買っておくわい。もちろん自腹だぞ。まあ煮干し1つ分しか賭けんがのう。レースは1時間後に始まる。結果が分かったら教えてやるからな。そうそう、今日の講義はこちらにいるケビンに担当してもらう。後はケビン、よろしくな」

そう言って、渋さんは教室の隅っこに行き、スマートフォンで馬券を買いだした。

「皆さん初めまして! 僕はケビンです。今日の講義『強運力』を担当します。よろしくお願いします!」

勢いよく挨拶をしたケビンさんは、見るからに活動的でたくましい雄猫だった。もちろんワタシ達よりは年上だろうが、かなり若く見える。短いゴールドの毛のアビシニアンで、足もとに特徴的なブーツを履いていた。

「講義の前に簡単に自己紹介するね。名前はケビンです。仕事はキャッツアイというベンチャー企業でマーケティングをやってます。キャッツアイって知ってる?」

キャッツアイ、なんか聞いたことあるような気がする。

「知ってますよ。最近、すごい勢いでユーザー数を伸ばしているマッチングサービスですよね。僕もアプリをミャオフォンにインストールしてますよ。まだ、あんまり使ってないですけど……」

「そう!それ! そのキャッツアイで、自分はマーケティングの責任者をやってます。肩書きはCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)なんだけど、まあ40匹ぐらいの小さな会社で、担当とか関係なくあちこちに首を突っ込んでいるから、チーフ・ミャオ・オフィサーなんて呼ばれてるよ

ケビンはふざけた顔でそう言った。

「さて、それでは今日の講義始めるよ。まず最初に質問です。では、ネコ美さん、優れたリーダーに一番重要な要素ってなんだと思いますか? さあ、どうぞ」

「リーダーにとって一番重要なもの…‥なんでしょう、猫を惹きつけるカリスマとか?」

「うーん……カリスマはあったらいいけど、一番重要な要素というわけではないかな。いろんな形のリーダーシップがあるかからね。ヨシムネくんはどう思う?」

「ビジョンでしょうか。ビジョンがないリーダーには、みんなついて行きたくないと思います」

「惜しい! 惜しいけど、ブッブー、不正解です。正解はね『強運』です。リーダーはね、ツイてなければいけないんです。だってさ、不運なリーダーなんて嫌でしょう?歩いていればドブに落ちる、出かけたら財布を落とす、ポテトチップスを開けようとしたら中身が弾け飛ぶ…………そんなリーダーになんて誰もついて行きたくないよねえ、チャビーくん

「そんなの、イヤ過ぎますね〜」

「世の中の成功者に、あなたの成功の要因はなんだったと思いますか? と聞くと、必ずと言っていいほど、自分は運が良かったという答えが返ってくる。運が良いか悪いかというのは、その後の成果を大きく左右するんだ。だから、運に対する取り組み姿勢は、生きていく上で本当に大切。でもさあ、そもそも、運って何だと思う? 考えたことある? ヨシムネくん」

「自分の意思とは努力ではどうしようもない巡り合わせでしょうか、ケビン先生」

「やだなあ、先生だなんてやめてくれよ、ケビンって呼んでね。そうだね、自分じゃどうにもならないことが運だ。でも実は、自分の意思や努力でコントロールできるものと、そうでないもの、その2つはそんなにハッキリしているわけじゃない。例えば、りんごが木からを落ちるのを見たことがきっかけで、万有引力の法則を思いついたという科学上の逸話があるよね。それって運が良かっただけ? それとも偶然をうまく幸運に結びつけたのかな? ネコ美はどう思う?」

「りんごはあくまできっかけで、ずーっと引力について考えていたから閃いた?」

「そうだよね。自分は運が良かったと考える成功者は、自分の失敗や、ふとした偶然をきっかけを契機として、幸運をつかみ取ることに長けているとも言えるよ。昔からのことわざでも、天は自ら助くる者を助くと言うよね。自分自身で努力する者には天の助けがあり、怠惰な者には幸福は訪れないということ意味している。ところでみんなはサッカーは好きかな?」

3匹はそろって頷いた。

「サッカー界に有名なストライカーがいて、彼はごっつぁんゴールキングと呼ばれている。なぜかというと、ゴール前で相手チームのディフェンスがミスをしたり、キーバーがシュートを弾いたりした時に、なぜかそのこぼれ玉が彼の前に転がるんだ。いいポジションで、運よくボールを拾ってゴールを決めるので、ごっつぁんゴールキングと呼ばれている。でもね、こういうことは、たまたまの偶然なのか、それとも狙っていたのか、境界線を引くのが難しいところだね。次の展開を予想して、ボールがこぼれてきそうなポジションに走り込んでいるからこそ、ゴールを決めらるのかもしれない。運も実力のうちだし、実力も運のうちで、運と実力は不可分な存在なのさ。ところでヨシムネくん、セレンディピティって言葉は知ってる?」

「聞いたことはありますが……何だったかな」

セレンディピティというのはね、幸運をつかみ取る能力のことだよ。自分の意思や努力でコントロールできないものが運だから、難しいかもしれないけど、今日の講義を通じて、みんながセレンディピティを意識するきっかけとなれば、嬉しいことこの上ないよ!」