3.4 リスクテイキング

「じゃあ次に2つ目のアプローチ、リスクテイキングについて話すね。これは、リスクが大きくて、何回もチャレンジできそうにないような場合に有効だ。そういう場合には、トライアンドエラーとは別の戦略を考える必要がある。古くからのことわざにも『危険を冒さなければ何も得られない』というのがあるよね。でもさ、何でそうなんだと思う? なんで、うまい話はないのかな? 例えば、インターネットの懸賞で『先着10匹様に、超高級フカフカ猫ベッドをプレゼント!早い者勝ち!』という企画があったとするよね。チャビー、どうなると思うかな?」

「なんか、一瞬のうちに申込みが殺到して、うまい話があったとしても、すぐになくなりそうですね〜」

「そうだよね、そうなんだよ。もし、そんなにうまい話があったとしても、チャンスは雪の結晶のように溶けてなくなってしまうんだ。だから、普通はリスクとリターンが釣り合ってると考えるべきだ。大きなリターンが欲しければ、大きな危険を冒さなければいけない。安全を重視しようとすれば、小さなリターンしか見込めない。もし、うまい話があったとしたら、その裏にどんな危険が潜んでいるのかを、注意深く見極める必要があるよ

「例えば僕らのキャッツアイでもね、新しいサービスを立ち上げる時は、立ち上げの費用はどれぐらい掛かるのか、それが失敗した時のインパクトは、というようにリスクの大きさを吟味するよ。もし、1回の失敗が致命傷となってしまったら、そこで挑戦が終わってしまう。成功するかどうかは、それこそ運によるところが大きい。だから、たとえ失敗したとしても、また立ち上がって挑戦できることが大事なんだ。そのために、リスクの大きさを調整していくんだよ。分かるかな? ネコ美」

ワタシは大きく頷いた。

「そういう意味で、宝くじって金額設定がうまいんだと思うんだよね、リスクは低くリターンは見た目上多く見えるから……」

その瞬間、ヨシムネが反論した。

「僕は宝くじは買いませんし、買う猫はバカだと思ってます。払い戻し率の期待値が低く、買えば買うほど主催者が儲かるだけですから」

ケビンは少しびっくりした顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻して続けた。

「リスクテイキングに関連して、僕の友達の2匹について話そうか。彼ら2匹は学生時代にバンドを組んでいて、それぞれがプロのミュージシャンを目指していた。学校を卒業して、1匹の猫は就職をせずミュージシャンの道を目指した。もう1匹は公務員になった。一見すると、公務員になった猫の方は、夢を諦めたように見えるだろう? でも現実はそんなに単純じゃない。就職しなかった猫は、スタジオ代やオーディションの参加費などを捻出するために、今もアルバイトを3つも掛け持ちしている。おかげで、ギターを弾く時間がちっとも取れていない。一方、公務員になった猫は、夕方5時には仕事を終えて、毎日3時間ギターを練習している。安定した給料も得ているから、継続して音楽事務所にデモ音源を持ち込み続けている。どちらかがミュージシャンとして大成するか、僕には分からないけど、公務員をやっている友達のほうが成功する可能性は高いと思ってるよ。リスクテイキングでは、基盤を確保した上で、挑戦し続けられる環境を整えることが大切さ。勝負する舞台から退場にならないこと、致命傷を負わないことが最も優先する事項で、そのためにはまず基盤を確保するのが大事というわけさ

渋さんが落ち着かない様子で、教室の前後をウロウロ歩いているが、ケビンは構わず続ける。

「同じ考えから、複数のことを同時に進めるというのも必要だ。一球入魂、一転突破で、芸術家のようにひとつの物事に打ち込む姿は美しいけど、リスクの観点からすると、一極集中は失敗したときにダメージが大きい。何が成功するかは分からないから、2~3個のものを同時並行で進めてみて、幸運が降って来るのを待つというのが良い姿勢だね。その配分は専門用語でポートフォリオと呼ばれていて、最適な配分を考えようとすると、確率や統計といった数学的な知識が必要となってくるんだけど……」

「どわーっ!!」

突然、教室の隅に居た渋さんが叫びだした。前後にウロウロしたかと思ったら、次の瞬間にはお腹を上に向けて、じたばたしている。しばらくして、皆に注目されていることに気が付き、急いで立ち上がって口を開いた。

「驚いたわい。当てよった……」

「どうしたんですか?」

チャビーの予想が当たりよった……8番―15番、オッズは215倍じゃ。まさか当たるとはのう……よいかな、お前さんがた。過去のデータを解析したり、既知の情報を論理的に分析するような、科学的な考察はもちろん大事じゃが、そこには限界があるということも意識をせんとダメじゃ。既知の情報の分析とは、所詮は1番人気の馬にたどり着くだけじゃからな。そして、1番人気の馬が勝つ確率はそんなに高くない。分かったかのう」

そこまで話すと、渋さんは荷物をまとめて教室から出て行こうとした。

「さてさて、わしはちょっと用があるのでお先に失礼してと……」

「ちょっと待って下さいよ〜! ボクの予想で儲けておいて、もしかしてネコババするつもりですか? それはないんじゃないですか!」

「ネコババだなんて猫聞きの悪いことを言うな! リスクを取って馬券を買ったのはわしじゃ! 今日の内容で理解したじゃろう、リスクとリターンは釣り合ってるとな!」

「いーや、納得できません!」

「まあまあ、落ち着きましょうよ。そうだ、こうしませんか。そろそろ講義も終わりの時間だし、みんなでランチにでも行きませんか…………もちろん、渋さんのおごりで」

「やったー! そうしよう!」

ワタシ達の盛り上がり具合に、渋さんも観念したのか、小声で「わかったわい」と呟いた。

「その前に、今日のまとめだよ」

そう言って、ケビンはホワイトボードを整理してまとめを書き出した。

【強運力】

1.トライアンドエラー

  • 偶然の連鎖が幸運を呼ぶ
  • 次に何が起こるかは分からない
  • 質より量が大事
    → 量を稼ぐためにモチベーションを保つマネジメントが大事

2.リスクテイキング

  • リスクとリターンは釣り合っている
  • 基盤を確保した上でリスクを取る
  • 複数のことを同時に進める
    → バランスの良いポートフォリオが大事