3.5 次に何が起こるかは分からない

ストレイキャッツハウスのランチは、ビュッフェ形式だった。ワタシ、ヨシムネ、チャビー、渋さん、ケビンの5匹で、カフェの奥にあるソファのテーブル席を陣取った。チャビーはお皿を山盛りにしただけでは飽き足らず、オプションでステーキを焼いてもらい、ご機嫌で食べながら話している。

「ボクねぇ、今日の講義は考えるところあったな〜。ボクの生き方には、リスクテイキングが足りないんだと痛感したよ。前にも話したけど、うちは地主だから、黙っていても定期的に地代が入ってくる。だから、それを守る気持ちが強くて、リスク回避の思考になってしまってるのかもしれないな〜と、今日の講義を聞いて思った。ボクには、しっかりした基盤があるから、リスクを取ってチャレンジしても大丈夫なんだ、と思ったら、なんだか力がみなぎってきたよ〜

チャビーは、食べたいけど話したい、話したいけど食べたいという感じで、せわしなく話し続ける。

「ボクはビンゴ大会が好きなんだ。ビンゴになった時の瞬間がたまらなく興奮する。もしかすると、生まれつきの性格としては、射幸心を追い求めるのも好きなのかもしれない。だから、不確実なことにも、もっと挑戦してみるべきなんじゃないかと思ったんだ。まあ、基盤を壊さない範囲でだけどね」

「よし、じゃあ手始めにバンジージャンプからやってみようか!」

ケビンが茶々を入れた。

「イヤですよぉ! そんなの絶対にゴメンです〜!」

渋さんもケビンも昼間からビールを飲んでいて、特にケビンは雄弁に語っていた。

「僕たちが手がけているキャッツアイは、もともとは、猫同士による商品売買のサービスから始めたんだ。ある猫が不要になったものを、別の必要な猫が安く買える……それって理想的だろ? キャッツアイは、そのプラットフォームを提供するというところから始めたんだけど、今はどんどんサービスを拡充させている。必要な時に必要な猫を! というコンセプトで、あらゆる猫のニーズをマッチングさせようとしてるんだ。僕らは、本気で世界を変えようと思ってやってるんだ!

「でも、キャッツアイってユーザーは無料で使えますよね。どうやって儲けてるんですか?」

「いい質問だね、ヨシムネ。君はフリーミアムというビジネスモデルを聞いたことがあるかい? 基本的なサービスは無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能については料金を課金するという仕組みなんだけど、僕らがやっているようなウェブサービスや、コンテンツビジネスなどは、フリーミアムとの親和性が非常に高いんだ。最近はサービス開発のコストが劇的に下がってきているし、開発・運用コストも低い。だから、目先の儲けなんかよりも、ユーザー数を増やして囲い込んで行くことのほうが優先だね。ユーザー数が増えれば、有料課金しなくても広告収入を得ることもできるしね」

「そうなんですか……でも……」

ヨシムネは納得してなさそうだったが、ケビンの勢いにかき消された。

「僕らはこの前、資金調達のラウンドBで、ベンチャーキャピタルから猫缶20万個を調達することに成功したばかりだ。周囲からの期待も高い。順調に会社は拡大してるけど、まだまだ成長が追いついていってない。猫の手も借りたいぐらいだよ。そうだ、君たち良かったら、うちの会社でインターンとして働いてみない? もちろん給料だってしっかり払うよ!」

突然の誘いに戸惑った。

「ボクは家の手伝いがあるんで……」

「僕は……働くなら親に相談してみないと……」

ヨシムネもチャビーも乗り気ではないようで、遠回しに断っていた。

「ネコ美はどう?」

ワタシも正直言って乗り気ではなかった。急成長中のベンチャー企業だなんて、ワタシみたいな地味な猫が馴染める気がしなかったからだ。ただ、ケビンがせっかく誘ってくれたのに、断るのは忍びないなという気持ちもあった。

それに、今日の講義で習ったことも気にかかった。インターンで働くのに、ワタシ自身のリスクは、ほとんどない。とにかくやってみて、毛並みが合わなかったらやめればいいか。やって初めて分かることもあるし、自分が想像だにしていなかった展開が開けるかもしれない……

「ネコ美? どうした?」

「……あ、すみません、ワタシ、インターンやってみます!」

「おお! そいつは良かった! ウェルカム!」

ケビンが差し出してきた手を、照れながら握り返した。

次に何が起こるかは分からないと講義では聞いたけど、本当についさっきまで、自分がベンチャー企業で働くだなんて、想像もしてみなかった。期待と不安が入り混じった気持ちを落ち着かせるために、ぬるくなったコーヒーをゆっくりとスプーンでかき混ぜ、それを一気に飲み干した。