「じゃあ、ネコ美さんはこのノートパソコンを使って、このフォームに情報を入力していってちょうだい。マニュアルはこれを見ながらやってね。その間に、私は事前課題を渋さんに送ってしまうわ。どうせ渋さんを経由して、あなたにも転送されてくるでしょうから、社内のメールであなたにも送っておくわね」
マニュアルに従って、フォームの入力、ネットワークの設定、プリンタの設定、メールの設定を終えると、メールボックスには既にサラからのメールが届いていた。
第3回講義「コミュニケーション力」事前課題
猫と会話をしてみて、会話が終わった後で、相手から「楽しかった」という言葉を引き出しなさい。
相手は誰でも構いませんが、こちらから「楽しかった?」と質問するのは反則です。自発的にコメントが引き出せるように工夫して下さい。
「ニュースレターのためにインタビューをするなら、この3匹がおすすめね。私から趣旨を伝えておくわね。楽しかった、と言ってくれるかは分からないけどね」
サラは笑いながら言った。
「何から何までありがとうございます! 頑張ります!」
「何か困ったことがあったらすぐに言ってね」
サラはそう言いながら、パソコンを閉じ、イスから立ち上がった。ワタシも慌てて立ち上がり、一緒に会議室を出た。
会議室を出ると、オフィスの壁側に5〜6匹の猫が集まっている。何かなと思って覗いてみると、コピーを取っている猫が立っていて、その後ろに大きめのキュウリが置いてある。コピーを取ってる猫の真後ろにはケビンが居て、「静かに」というハンドサインを周囲に出しながら、スマートフォンでビデオを撮影していて、周りの猫はニヤニヤしながらそれを見つめている。
やがて、コピーを撮り終えた猫が、立ち去ろうとゆっくりと振り向いた瞬間
「ギャ! ギャニャー!」
驚きのあまりに奇声を上げながら、腰の高さぐらいまで飛び跳ねた。
「ワーハーハッハッハ!!」
その、あまりの驚きようを見て、ケビンと周囲の猫は大笑いをしている。
「やめろよ!ケビン! 心臓が止まるかとおもったぞ!」
「いや〜、面白いもの見せてもらったよ! いい映像が撮れた。これも動画サイトにアップロードしちゃお〜っと」
「ケビン、何やってるのよ」
「最近さ、インターネットで『猫にキュウリ』が流行ってるんだよ。なぜだか分からないけど、振り向きざまにキュウリを見ると、猫はびっくりするんだ。動画サイトには、全国の猫がキュウリにびっくりしている映像がたくさん見つかるから、検索してみたらいいよ。面白いぜ〜」
ケビンはスマートフォンを操作しながら立ち去っていった。周囲の猫に話を聞いてみると、ケビンはかなりのイタズラ好きで、いつもサプライズを仕掛けようとネタを仕込んでいるらしい。本当にいつ仕事をしてるのかしら。
ワタシはノートパソコンを持って、フロアにある空いているテーブルに座った。さて、ニュースレターの作成ね。まずは何から始めようかしら。そうだ、次の事前課題は、誰かに楽しかったと言ってもらうことだったわよね。じゃあ、サラに紹介してもらった3匹とのインタビューを、大いに盛り上げて、終わった後で、誰かに楽しかったと言ってもらおう。よし、楽しいインタビューにするために徹底的に準備をするか。
最初に……環境づくりから。インタビューの場所はどこにしようかしら。そうだ、フロア中央にある大きなソファがいいわね。素敵な音楽を掛けて、テーブルにお菓子も置いておこう。インタビューの時間は、ランチが終わって、ゆったりした気分の時がいいかしら。質問も、事前にしっかり練っておいて、簡単なアジェンダとタイムスケジュールを作っておこう。
その日は一日中、インタビューの計画と準備をした。そして、翌日から1匹づつ個別にインタビューを始めた。
しっかりと準備をして臨んだこともり、インタビューは、終始和やかな雰囲気で進めることができた。
「いまどんな仕事をしているのか教えて下さい」
「キャッツアイについてどう感じているか、今後どういう会社にしていきたいと思っているか」
「あなたのバックグラウンドについて教えて下さい」
「休日の過ごし方、ハマっていることについて教えて下さい」
インタビューを盛り上げるために、ワタシは普段よりも大げさに、表情を作ったり、共感を示したり、ジョークを言ったりした。話が途切れてしまう時には、会話を繋げるためにワタシ自身の話をした。
途中で話が脱線してしまうこともあったけど、事前にアジェンダとタイムスケジュールを作っていたお陰で、スムーズに軌道修正を図ることができた。
紹介してもらった猫とのインタビューを全て終えて、ワタシは手応えを感じていた。これならいいニュースレターが作れそうだ。ほとんどの事が、事前の計画通りに進んでいて、ワタシの初仕事は成功だったと感じられた。ただ1つ、「楽しかった」というコメントがなかったことを除いて……