4.4 話し上手

「図書館に行けば猫を動かすという本があるから、これは課題図書にしておくわね。この講義が終わったら、借りて読んでおくこと。かなり前に書かれた本だけど、今もなお売れ続けている超ロングセラーで、自己啓発書の金字塔ね。会社の経営者や企業幹部にも評価が高くて、新入社員研修に使われたりする事も多いわ。この本はね、コミュニケーションのテクニックというよりは、もっと本質的なことを説いているの。相手のことを尊重し、相手の心を開いて、相手に気持ち良く話してもらう、それがコミュニケーションの秘訣よ

「あのう、自分が苦労してコミュニケーションの橋を架けた後で、それで相手に自由に話してもらうんですか? じゃあ、いつになったら自分の話ができるんでしょうか?」

「自分のことを話したい? そうよね、猫は誰だって自分のことが話したいの。相手に興味を持ってもらって、自分のことを話すのは悪い気分はしないもの。一見、無口な猫だってそれは変わらないわ。だから、相手に思う存分話してもらうといい。そうすれば、相手はあなたのことを信頼してくれるようになる。相手が十分に満足をして、心の準備が出来たら、自然とあなたの話す番が来るから安心していいわ。猫を動かすにはこうも書いてある」

あなたが明日出会う猫の四分の三は、「自分と同じ意見の者はいないか」と必死になって探している。この望みを叶えてやるのが、猫達に好かれる秘訣である。

「さあ、今まで話したことをまとめるわよ」

そう言って、サラはホワイトボードに書き出した。

【コミュニケーション力】

1.コミュニケーションの橋と7つの柱

  • 物理の柱
  • 言語の柱
  • 経路の柱
  • 品質の柱
  • タイミングの柱
  • 整形の柱
  • 内容の柱

2.猫を動かす

  • 相手のことを尊重し、相手の心を開いて、相手に気持ち良く話してもらう
  • 相手に信頼され、相手が十分に満足してから、自分の話をすること

 

「今日の講義について何か質問あるかしら?」

ワタシは、この前やったインタビューについて質問をしてみた。

「ニュースレターを作成するのに、サラさんに紹介してもらった3匹にインタビューをしたんですけど……インタビュー自体は成功したと思ったんですが……その……楽しかったとは言ってもらえなくて……。どこに原因があったのでしょうか?」

「そうね……、ネコ美さんはどう感じてるの?」

「正直言って今日の講義を聞くまで、何が悪かったのか分からなかったんですけど……サラさんの話を聞いてみて、もしかすると、まだ話し足りなかったのかもしれない……というような気がしてきました」

「そう思うなら、次回はやり方を工夫をしてみるといいわ。次回はきっとうまくいくわよ」

講義が終わってから、さっそく図書館に寄り、猫を動かすを借りてみた。確かに評判通り、目からうろこがボロボロ落ちるような内容が書かれていた。内容は大まかに4つのパートに分かれており

 パート1:猫を動かす3原則

パート2:猫に好かれる6原則

パート3:猫を説得する12原則

パート4:猫を変える9原則

というように構成されていた。コミュニケーションの本質を突いているにも関わらず、内容は具体的で、明日からすぐに使えそうな助言にあふれている。インタビューに使えそうな言い回しや、心構えなども数多くあったため、家に帰ってから落ち着いて読むことにした。

そして次のインタビューの日。相手はカスタマーサポートのキャシーだったのだけど、前とは比較にならないぐらい、大盛り上がりのインタビューに仕上がった。

(猫は誰でも自分のことを話したいもの)

何度も自分に言い聞かせてから、インタビューに臨んだ。相手に率直な関心を持って質問を投げかけ、話が脱線したとしても、時間のことは気にせず、相手が気持ちよく話せるようにどんどん話してもらった。話が脱線に脱線を重ねた時に、キャシーは思い出したように、あるエピソードを話してくれた。

ある日ね、私が業務システムへデータを入力していた時、突然変な画面が現れて『お前のパソコンをハッキングした。30秒以内にエンターキーを100回叩かなければ、すべてのデータを消去する』と言うのよ! それを見て私はびっくりしたわ! 驚いたけどけどデータが消えてしまっては大変だから、慌ててエンターキーを叩きまくったの! それでも、画面のカウントダウンは5、4、3、2、と迫ってきて、もうだめだ!!と思ったら……カウント0でドカーン!と爆発音がしたの。

そうしたら……今度は画面からハッピーバースデーの音楽が流れてきてね、気が付くと私の後ろからも聞こえてきたの! その時はやられたと思ったわね! その変な画面は、ケビンが仕込んだいたずらだったのよ。後ろを振り返ってみたら、バースデーケーキを用意したメンバーが私を取り囲んでいて、その後は仕事そっちのけで、みんなでケーキを切り分けて食べたのよね。あの時は本当に楽しくて嬉しくて、この会社で働いていて本当に幸せだな~と感じたわ

それは、キャッツアイの文化や雰囲気をよく表している素敵なエピソードだった。興奮しながら臨場感あふれる話しぶりで、話を聞きながら自分もその場にいたような錯覚を覚えた。そして、キャシーはインタビューの終わり際にこう言った。

「ありがとう、こんなに楽しかったのは久しぶりだわ。ネコ美さんは、本当に話をするのが上手ね」

ワタシはびっくりして目を丸くした。楽しかったと言ってもらえただけでなく、「話をするのが上手」と言われたのだ。ワタシ……ほとんど話してなくて、聞き役に徹していただけなのに。自分がこれまで想像していた、話し上手というイメージが覆された気がした。

ただ……キャシーにそう言われて悪い気はしなかった。初めて、自分自身の成長に手ごたえを感じるのと同時に、この会社で働き続けたいかもと感じている自分に気が付いた。