5.3 ドッグイヤー

「想像力が大切だというのは理解してもらえたと思うので、次は何を想像したら良いかを話すね。1つ目は『自分の未来を想像する』こと。みんなにはライフイベント表を作成してもらったけど、正にあれがそうだ。自分の未来を想像して、目いっぱい夢を膨らませて、そしてその達成時期を入れる。それが本当に実現出来るかなんて分からないけど、自分の想像の中では成功のイメージができている……僕にとっては生きていて最もワクワクする瞬間だよ。自分の未来を想像するなんて、やれば簡単なことなのに、残念ながらほとんどの猫がそれをしない。猫が100匹いたとしたら、95匹の猫は自分の未来を想像しないね。ある猫は、自分の将来を考えるのが怖いと言う。平凡な未来しか想像できなくて、未来を想像すると憂鬱な気持ちになるらしい。また、ある猫は未来を想像しても意味がないと言う。想像した通りの未来なんて来ないから、そんなこと考えるだけ無駄なんだそうだ。まあ、僕に言わせてみれば、そのどちらの猫も、生きるということから逃げているだけだね」

僕は、断言するよ。自分が想像した未来よりも、素晴らしい運命が待っているなんてことは絶対にない! 自分が想像したことが実現するかどうかなんて分からない。でもね、これだけは言える。自分が想像できる未来の姿、それが自分の辿り着ける最高到達点なんだ! 大事なことだからもう一度言うね、自分が想像できる未来がマックス! 自分の想像以上の未来は絶対にやってこない! オリンピック出場を夢見ているだけでは、金メダルは絶対に取れないんだよ!」

ケビンは、ペットボトルの水を飲み、一息ついてから続けた

未来を想像するのに怖がる必要なんてない。伝説の喜劇役者もこう言っているよ。『ニャン生は恐れなければ、とても素晴らしいものなんだよ。ニャン生に必要なもの。それは勇気と想像力、そして少しの猫缶だ』とね。ライフイベントも、自分の夢も、いったん決めたらそれを貫かなければならない、という感じで勝手にプレッシャーを感じてる猫もいるけど、それは勘違いだよ。そんなもの、誰に強制されてるわけじゃないんだから、自分の好きなタイミングでいくらでも変えていいんだ。だから気軽に考えればいいんだよ。最初から大きな野望を掲げる必要もない。最初はささやかな夢だったとしても、定期的に自分の将来像を確認して、適宜見直しを加えていく習慣さえあれば、自然と想像は膨らんでいくものさ。さあ、ここまでいいかな? チャビー、ついてきてる?」

「うーん、自分の未来を想像するのが大切だというのは分かったんですけど、具体的にどうしたらうまく想像できるようになるんでしょうか? ボク、事前課題に取り組んだ時に、なかなかうまく想像できなくて……」

「お、いい質問だね。その質問には後で答えるから、楽しみに待っていてくれたまえ。では次に、何を想像したら良いかの2つ目について話すよ。2つ目は『時代の流れを想像する』ことだ。君らも肌で感じていると思うけど、世界は常に変化している。だから時代の流れを想像して、時代の半歩先、一歩先に行動する、これが本当に重要なんだ。さっきの渡り鳥の話でも言ったけど、自分としては何も悪いことをしていなくても、時代の流れを想像していないために、流れに取り残されて負け組となってしまう事例はたくさんある。ネコ美は海や川で泳いだことはあるかい?」

「ワタシ、水が怖いので泳いだことないです」

「海や川でね、流れに逆らって泳ぐと、たとえ水泳の選手だったとしても全然先に進まなくなる。逆に、流れに沿って泳ぐと、驚くほどのスピードで泳ぐことができるんだ。だから、時代の流れの先を想像して、少しだけ先を進んでいけるだけで、余計な苦労をしなくて済むようになる。これは僕のやっているマーケティングの理論なんだけど……この図を見てごらん」

ケビンはスライドに1枚の図を映し出した。

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「これはね、マーケティングの世界でイノベーター理論と呼ばれているものだ。一般的に、新製品や新サービスが市場に出されたときに、猫によって購入態度は異なってくる。それを5つのタイプに分類したのがイノベーター理論だよ。具体的な例で説明すれば、そんなに難しくないからよく聞いててね」

「例えばね、新しい猫の爪とぎが発売されたとしよう。これまでの従来製品は木製で、重いし、落とすと割れるし、爪を研ぐ部分も摩耗が激しかったんだけど、そこに、カーボンを含む新素材を使った画期的な爪とぎが開発されたとしよう。この爪とぎは従来製品よりも、軽く、丈夫で、爪を研いでも摩耗しない優れものだ。イノベーター理論は、こういった場面で、いつ新商品にチャレンジするかという猫の性格を分類してるんだ。一番最初は、新しい物好きですぐに試してみるイノベーターが新商品を買う。市場全体の2.5%を占めていると言われている。その次に商品を購入するのがアーリーアダプターだよ。流行には敏感で、自分で情報収集をして判断する猫たちだね。市場全体の13.5%を構成していて、他のグループへの影響力も大きく、商品の普及の大きな鍵を握るとされているよ。その次はアーリーマジョリティだ。新しいものを取り入れるのは比較的慎重だけど、アーリーアダプターからの影響を強く受け、全体の平均より少しだけ早く取り入れる。市場全体の34.0%を構成していている。平均から少し遅れて行動する猫がレイトマジョリティだ。周囲の大多数が使用しているという確証が得られてから同じ選択をする慎重な猫だね。市場全体の34.0%を構成する。最後がラガードだ。最も保守的な猫で、流行や世の中の動きに関心が薄く、イノベーションが伝統化するまで採用しない。市場全体の16.0%を構成している。中には、最後まで『木製の爪とぎじゃなきゃ嫌だ』と新製品を拒絶する猫もいるだろう」

「ここで君たちに言いたいことは、無理してイノベーターになる必要はないけど、アーリーアダプターまたはアーリーマジョリティには入っていなさいということ。繰り返しだけど、時代の流れの先を読んで、時代の半歩先、一歩先に行動する、そうするために必要なのが想像力ということだよ。最近は、時代の変化するスピードがどんどん速くなってるから、前よりも一層強く意識をしていく必要があるね。なあ、ヨシムネ」

「技術革新などの変化が激しいことを『ドッグイヤー』と言いますもんね」

「ドッグイヤーって何?」ワタシが口を挟んだ。

「イヌは成長して老いていくスピードが速いから、IT業界などの時代の移り変わりの速さを誇張する時に使う表現だね。まあわれわれ猫からすると、イヌは落ち着きがないだけに見えるけど」

ケビンは、舌を出してハァハァ言いながら、イヌの真似をして笑いを誘った。