5.4 想像力の鍛え方

「さあ、3つ目のポイントに移ろう。3つ目は『周囲の猫の心を想像する』ことだ。自分が接している猫の心情を想像するというのは、社会的存在の僕たちにとっては大事なことさ。相手に対する気遣いやおもてなしというのは、想像力の賜物だからね。仕事ができる猫、気遣いができる猫が、他の猫と何が違うかと言われれば、ほんの少し先を想像できる力があるかどうかが大きいね。1年も先を想像する必要なんてなんてないんだ。目の前の相手が何を欲しがっているか、相手を楽しませるにはどうしたらいいか……常に5秒先を想像できるとしたら、君たちは誰からも気が利く猫だと言われるようになるよ」

「これは、口で言うのは簡単だけど実行するのは難しいことだよ。猫の価値観はそれぞれ違うから、ある猫には嬉しいことが、別の猫には不愉快なことになるかもしれないからね。普通は、自分だったらこう感じるということをベースにして、相手の心情を気遣うけど、それがそのまま通じるとは限らない。だから、本当に相手を思いやろうと思ったら、自分の中にたくさんの価値観を持っておく必要があるんだ。いいかな? チャビー」

「ボクは気が利かないってよく言われます〜」

チャビーが照れながら言った。

「ここまで、どういう場面で想像力を発揮したらいいかについて話してきた。ここからは、どうやったら想像力を鍛えることができるかを話すね。さっき、ヨシムネがチェスの話をしてくれたけど、チェスのような対戦ゲームは、相手の手の内を読んで自分の意思決定をするゲームだから、想像力を養うのには良い練習になる。もちろん定石もあるだろうけど、その時の状況も、相手の性格、表情、動作などから総合的に判断するだろう? ゲームでは相手を出し抜くことが目的だけど、それで培われた想像力はあらゆる場面で役に立つよ。ちなみに僕はポーカー派だけどね、あ、聞いてない?

今日のケビンはよく喋る。だけど、目の下にクマが出来ていて、疲労感が色濃くにじんでいる。昨夜はパーティーだったのかしら。

「世界にはブックメーカーと呼ばれる、世の中の出来事を対象とする運営企業がいるから、ブックメーカーの提供する賭けについて予想してみても面白いよ。スポーツ大会の順位、為替レート水準、大統領選挙、クリスマスに雪が降るかどうかなど、ブックメーカーはさまざまな事象を賭けの対象にしている。もちろん、実際に賭けはしなくてもいいよ。不確実な事象に対して根拠を組み立てて、自分なりの予想を立てる、という練習をするんだ。想像力も筋肉と一緒で、トレーニングをしないと力を身に着けることはできないよ。想像するのが怖いと言っている猫は、想像力の筋肉トレーニングが足りてない証拠さ。自分で予想してみて、結果を見てみるという作業を繰り返すことで、想像力の筋肉が鍛えられてくるんだ。安心していいよ。不確実な事象を予想するのに、プロもアマチュアも大差はないから。例えばね、年初の投資雑誌には今年の推奨銘柄!なんていう特集が組まれたりするんだけど、その雑誌を1年後に取り出してみると、プロのアナリストが予想を大外ししてるなんてことはよくある。だからここでは予想を当てるということよりも、自分なりの予想を立てるということのほうが大事なんだ。ただ、競馬の予想は……想像力に役に立つかは分からないけどね」

教室の隅っこで寝ている渋さんを尻目に、ケビンは続ける。

「おっと、重要なポイントを話すのを忘れていた。君たち、想像するというと、目をつぶってこう、うーんとうなって空想するようなイメージを持っているよね。それは想像する姿勢としては正しくない。そもそもね、自分の知識と経験の組み合わせを超えるような想像というのは不可能だよ。例えばね、僕たちのようなベンチャー企業はユニコーン企業と呼ばれていたりする。ユニコーンの絵は見たことあるだろう? 額に一本の角が生えた伝説の生き物だけど、あれだって単に、白馬と角のある動物を組み合わせただけで、特に新しい要素があるわけじゃない。その組み合わせが新しいということなんだ

「同じように、想像するという行為は、自分の知識と経験を組み合わせるということに他ならないよ。それで、ここが大事なところなんだけど……自分の知識と経験なんて限界があるだろう? だからね……自分以外の猫の経験を、あたかも自分の経験のように自分の中に取り込むことができるかがポイントになってくる。さっき、チャビーが質問してくれたよね?『どうしたら自分の未来を想像できるようになるんでしょうか』って。それに対する僕の答えは、目をつぶって想像していてはダメで、貪欲に知識を身に着けること、いままで体験したことのない経験をしてみること、そして何より世界に飛び出して、いろんな猫と話をすること、ということだね。本、小説、映画、他の猫の体験談など、いろんな分野のいろんなチャネルから、知識と経験を仕入れて、自分の中で熟成させていくんだ。そうすることで豊富な想像力を支える土台が構築されていく。その過程で、猫のさまざまな価値観を知り、想像力が醸成されていくんだ。チャビー、これで答えになったかな?」

「は〜い、分かりました。ところで、なんでキャッツアイはユニコーン企業と呼ばれているんですか〜?」

「お、よく聞いてくれたね。それは、ユニコーンのように稀少で、巨額の利益をもたらす可能性のある企業として、投資家から期待されているからであります! はい、失礼しました。自慢でした。それでは今日のまとめに入るね」

そう言って、ケビンはホワイトボードに書き出した。

【想像力】

1.想像力とは自分の関心を時空を超えて拡張する力

  • 関心の幅を広げることで、今まで見逃していた情報をキャッチできるようになる
  • さまざまな状況に対して準備ができるようになる

2.何を想像したら良いか

  • 自分の未来を想像する
  • 時代の流れを想像する
  • 周囲の猫の心を想像する

3.想像力を鍛える方法

  • 対戦ゲーム
  • 自分なりの予想を立ててみる
  • 知識を身に着ける、新しい体験をする、自分以外の猫から学ぶ

「じゃあ残り時間は、グループディスカッションの時間にするね。各自、事前課題で考えてきたライフイベント表をもとに、自分の将来像について話して下さい」