6.3 目標設定の方法

「では次に、具体的な目標設定方法について話すから聞いていて。目標設定を行うフレームワークにSMARTというものがある。これは有名だから聞いたことがあるかもしれない。目標設定に必要な要素の頭文字をとったものだよ。

pecific (具体的である)
easurable(測定可能である)
chievable(達成可能である)
elated(成果に基づいている)
ime-bounded(期限がある)

それぞれの要素を1つづつ説明していこう。

Specific (具体的である)
目標が具体的でないと、後から振り返ってみて『この目標を達成した!』と判定することができない。だから、目標は達成条件が明確なものが好ましいよ。

Measurable(測定可能である)
定量的に測定可能な目標ほど、達成条件も明確だし、目標の進捗状況がよくわかる。インターネットからファイルをダウンロードしている時に、画面に進行状況が表示されなかったとしたらどうだろう? たぶん3分も待ってられずにキャンセルボタンを押してしまうんじゃないかな? 自分でやっていることが進んでいるどうかが感じられないというのは、猫にとってすごくストレスなんだ。

Achievable(達成可能である)
自分が達成することができない目標を掲げても意味がない。頑張れば手が届くぐらいのハードルの高さにしておくことが重要だ。

Related(成果に基づいている)
目指す方向に向かっているか。あるいは、自分がワクワク目標であるかと読み替えてもいいかもしれない。義務感が強いようなものは、目標設定ではなく、別のアプローチを考えたほうがいいかもしれないね。

Time-bounded(期限がある)
猫は期限から逆算して行動する習性があるよ。期限がないと、猫は行動を起こさないというのは万国共通だ。

以上が、目標設定のSMARTだ。簡単な例で言うと『読書を頑張る』みたいな目標は悪い目標設定だ。SMARTな目標にするんだったら『12月までに友達に推薦してもらった3冊の本を読む』みたいにすればいい

objectives-1262377_640

「じゃあ、事前課題で考えてきてもらった、みんなの目標がSMARTかどうか照らし合わせてみよう、まずはヨシムネくんから。世界を平和にするための目標を教えてくれ」

「世界を1つの国家にして、猫も1種類にする」

「よし、いいね。まず達成条件は明確だからSは満たしている。数値化されていて進捗も図れるからMも満たしている。達成可能かどうか?ここはちょっと疑問だね、Aは×。ワクワクする目標だからRもオーケー。期限がないからTは×と。こういう形で、自分の設定した目標が、SMARTの観点を満たしているか確認すればいい。じゃあ次、チャビーくん、いいよ」

「えーと、貧困をなくす」

「そもそも、どういう状態になったら貧困がなくなったと言えるのかが不明確だね。ワクワクする目標ではあるけど、その他の項目については全部×かな。じゃあネコ美さん」

「……部屋を片付ける」

「はっはっは、ちゃんと考えたかな? まあ、わりと具体的で、達成可能ではあるけど、そもそもそれで世界が平和になるかどうかが不明だね。以上がSMARTの説明だよ」

さらに、SMARTに加えて、もう1つ大事な観点がある。それは自分でコントロールできる目標かということ。例えば『今年1年間、震度5以上の地震に合わないようにする』という目標を立てたとする。目標としてはSMARTかもしれないが、その目標を達成できるかどうかは、自分ではコントロールできない。地震は自分のコントロール外にあるからね

「プッシーキャッツの例で説明しよう。プッシーキャッツは万年最下位だったから、私がヘッドコーチに着任した時、すでにチームを身売りするという話が出ていたんだ。だから、一番最初のチームの目標は『チームの身売りを阻止する』ということにした。だが、この目標は良いものではなかった。なぜなら、チームの去就を決めるのはオーナーであって、選手やコーチのコントロールできる目標ではなかったからだ。だからチームの目標は『プレーオフファイナルで優勝する』ことに変更した。しかし、これでも目標として適当かは難しいところだ。なぜなら、我々は万年最下位のチームだし、勝負は時の運だからね。だから我々は、もっと目標をコントロール可能にするために『フリースローの練習を毎日100本以上行う』というように練習プロセスを目標にしていった。プロセスを目標にすると、目指す方向に向かっているかという、Relatedの要素を減らすことになるが、自分でコントロールできる目標になってくる。このように、結果を目標にすることと、プロセスを目標にすることを、使い分けながら、SMARTかつコントローラブルな目標に調整していくのが、良い目標設定の方法だということを覚えておいてほしい。どうかな、チャビーくん」

「貧困をなくすという目標より、寄付を○回するという目標の方が、自分でコントロールすることができるということですかね〜?」

「その通りだ。君は飲み込みが早いね」
チャビーは照れながら笑った。

「では、次に具体的な目標の設定手順について話す。これはエグゼクティブ・コーチとして、私が企業経営者などに教えている方法だ。まず、前回までの講義で、自分の自己分析シートとライフイベント表は作成してるよね? もし達成時期が決まってないものがあれば、まずはその達成時期を決めよう。そこに書いてあるものは、目標にするにはまだ大き過ぎる。そのままでは、マットレスサイズのピザだから、もっと分割していかなきゃだめだ。だいたいね、達成されない目標は、そもそも目標自体が大きすぎるんだ。『1年間ジムに通う』というように、今年の目標を立てたりするけど、それは目標としては大きすぎる。3ヶ月の目標でも大きいくらいだ。できれば目標は1ヶ月で達成できるぐらいに分割すべきだよ。もし1年間ジムに通いたいのであれば、『今月はジムで8回ワークアウトする』という目標設定をして、その月間目標を12回達成するようにするんだ。そうやって、やりたいことを分割して、1ヶ月ぐらいの大きさの目標にする

image

「目標を設定して、それで終わりではだめだよ。目標を設定したら、進み具合を確認する時期を決めて、カレンダーに印をつける。目標は何回も見返すことが大事だからね。私は自分の目標を確認するタイミングを、スマートフォンのリマインダーにセットしているよ。そして見返すタイミングが来たら、目標を取り出して進行状況を確認する。この時に、目標が進んでいなくても落胆する必要はない。実際にやってみて目標のハードルが高すぎたら、目標を下げればいい。立てた目標を読み返してみて『本当に実現したいと思っているか、想像するとワクワクするか』と自分自身に問いかけてみて、答えがイエスでなかったら、目標自体を変えてしまえば良い。いったん立てた目標は絶対に変えない、変えたら負けを認めたことになる、と意固地になる猫がいるけど、そんなのバカらしいよ。そもそも、そういう完璧主義者は勝負所で弱い。自信満々で隙がないように見えるけど、自分の解決できない問題にぶつかると冷静さを失い、少しでも失敗するとすべてを投げ出してしまう。世の中は自分の思い通りになんていかないのだから、目標設定は低空飛行でも続けることが大事なんだ。だから、いったん立てた目標でも、状況に応じてどんどん見直していいんだ。目標設定が適切じゃないから達成されないんだし、自分の目指す方向も常に変化しているんだから、目標だってどんどん変化させていけばいいからね。それでは、講義で話した内容をまとめよう」
そう言って、タイラーはホワイトボードに書き出した。

【目標設定力】
1.目標設定の重要性

  • 自分の目指す方法を見失わなくなる
  • モチベーションを保てる
  • 適切な大きさ、適切なタイミング

2.目標設定の観点

  • SMARTのフレームワーク
  • 自分でコントロールできるか

3.目標設定の手順

  • 自己分析シート、ライフイベント表がスタート地点
  • 1ヶ月で達成できるレベルに分割
  • 目標設定と同時に見返す時期を決める
  • 目標は変えてもいい

「じゃあは残りの時間は自習時間だ。実際に自分の目標を立ててみなさい。教室は……渋さん、遅くまで使っててもいいんですよね?」

「ああ、電気だけ消してってくれな。用務員さんがうるさいから」
そうして渋さんとタイラーは教室から去っていった。