6.4 嫌な予感

残されたワタシ、ヨシムネ、チャビーは、黙々と自分の目標を考えていた。

ワタシのライフイベントとして、明確になっていないのは……まずは大学卒業後の進路だ。キャッツアイに入れたとしても、その後のキャリアプランのイメージがない。だから、まずやるべきことは、ケビンに面談をしてもらい、キャッツアイの中での自分のキャリアプランを明確にすること。そのためには、ケビンとの面談を設定することから始めよう。期限はいつまで? 今月中だ。…………そうだ、ケビンにメッセージを送ったのに返信がない。ミャオフォンを確認すると、メッセージは既読にはなっていたが、返信は来ていなかった。しょうがないな、仕事中かもしれないけど、思い切って電話をするか。

「お掛けになった電話番号は、電波の届かないところにおられるか、電源が入っていないため掛かりません…………お掛けになった電話番号は」

だめだ、つながらない。仕方がない、オフィスの電話番号に掛けよう。

お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。もう一度、電話番号をお確かめになってお掛け下さい…………お掛けになった電話番号は」

あれ? 間違えたかな。もう一度よく番号を確かめて……。

お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。もう一度、電話番号をお確かめになってお掛け下さい…………お掛けになった電話番号は」

ええー? どういうこと? キャッツアイに電話がつながらない……。

「どうしたの? ネコ美、青い顔をして」
「…………なんかおかしいの。ケビンさんに連絡がつかない。会社の電話番号に掛けても、使われてない番号だって……」

「あ、そういえばボク、この間、ケビンさんみたいな猫を見たよ!」
「ええっ? どこで?」

「ほら、駅の反対側に役所があるでしょ? そこで、煮干しの配給に猫が並んでいたんだけど、その中にケビンさんがいた気がしたんだ」

「配給に並んでいた? そんなことないでしょ」
「ボクもそう思ったんだけど、あんなブーツ履いてる猫なんて、ほかにいないでしょ。ケビンさんかな思って声を掛けようかと近づいたら、向こうもボクに気付いたらしくて、そそくさと列から離れていなくなってしまったんだ」

ケビンが電話に出ない……。会社の電話がつながらない……。配給に並んでいたという目撃情報……。やっぱり変だ、何かが起こっている……。

嫌な予感がして、いたたまれない気持ちになり、席を立った。
「ワタシ、ちょっと行ってくるね!」
「行くってどこへ?」
「駅の反対側の役所へ!」

教室を出て、ワタシは走り出した。廊下を走って角を曲がったところで、清掃員の猫と軽くぶつかってしまい、平謝りのまま立ち去った。キャンパスを出ると、空はどす黒い雲で覆われており、今にも雨が降ってきそうな感じだった。キャンパスを出てから10分ほど走ったところで、息が上がってしまい、そこからは肩で息をしながら歩いた。

ハァハァ……ケビンの身に何かあったんだろうか……。ハァハァ……会社はどこに行ってしまったんだ……。ハァハァ……まさか、夢だったなんてことないよな……。

次第に、ポツポツと雨が降ってきて、そしてすぐにバケツをひっくり返したような豪雨になった。ワタシはびしょ濡れになりながら走った。心臓が壊れんばかりに激しく打ち、たまらず立ち止まった。よろよろと2、3歩あるいては、また走り出す。そんなことを繰り返しているうちに、もう全身はずぶ濡れで、走ってるのか、歩いてるかよく分からない状態だった。

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ようやく役所に着いて、受付の猫に用件を聞かれたが、息が弾んでうまく話せない。受付の猫は無言で、タオルを貸してくれた。全身をタオルで拭きながらワタシは尋ねた。

「猫を探してるんです。何日か前に煮干の配給に並んでいた猫なんですが……」
「配給? 福祉関連は7番窓口に並んで」

受付の猫はぶっきらぼうに答えた。7番窓口に向かうと、窓口の前には順番待ちの端末があり、ワタシの順番は6番目だった。ベンチに座って順番が来るのを待っていたが、心は不安でいっぱいで、落ち着かなかった。30分ほど待ってようやく呼ばれて窓口の前に立った。

「次の方どうぞ。要件はなんですか?」
「あの、猫を探してるんです……」
「ここは福祉担当なので、行方不明の捜索は警察に行って下さい」
「数日前の煮干の配給の時に、役所の外で列に並んでたらしいんです。種類はアビシニアンで、特徴的なブーツを履いてるんですが……」
「毎回、配給の時は200匹ぐらいの猫が並ぶからね。ちょっと分からないかな」

頑張ってずぶ濡れになって走ってきたのに、不安を押し殺して待っていたのに、収穫はゼロだった。込み上げてくる気持ちを抑えて、ワタシはその場を立ち去った。

役所を出ると、まだ雨が降っていた。さっきより勢いは収まってはいたが、それでも激しい雨には変わりなかった。ワタシは、意を決して雨の中に走り出した。1分ぐらい走ったところで、大きな水たまりがあり、それを避けようとジャンプした時だった。疲れからか、足がもつれて、派手に転んでしまった。路上にはポーチの中身がばら撒かれ、あちらこちらが泥だらけになった。悲しくて涙が溢れてきたが、通りがかりの猫が駆け寄ってくれて、一緒に中身を拾ってくれた。ワタシは泣くのをこらえて、小声でお礼を言うのが精一杯だった。