8.2 変化はチャンス

「みんなお久しぶり、元気にしてたかしら。今日の講義も、サラが担当するわ。この集中講義も、残すところあと2回ね。みんな、これまでの講義を通じて、将来について考えてきたかしら。自分の未来を想像し、目標を設定して、計画を立て、実行に移し、コントロールしていく。それが今まで習ってきたことね」

「でも……、自分が思った通りに物事が進むなんてことはそう多くない。現実はそんなに甘くはないわね。自分の想像もしなかった出来事が起きて、自分の夢や計画が台無しになってしまうことだってあるわ。ただ、そこで打ちひしがれてはダメよ。そういう時こそ柔軟に適応することが重要になってくる。今日の講義はそういった変化に対する『適応力』についてよ。準備はいいかしら?」

3匹は黙って頷いた。

「じゃあまず最初に、変化についての話から始めるわね。ネコ美さん、この世界で動かないものって何かある?」

「動かないもの…………そびえたつ岩山とか?」

チャビーが割って入った。

「山だって、火山活動とかで動いたりするでしょ〜」

「じゃあ……地球は?」

ヨシムネが2匹を制するように言った。

「地球だって動いてるよ。地殻変動で地表も日々動いているし、地球自身も時速10万キロメートルで太陽の周りを周っているわけだしね。だから太陽の方が動かないで安定してると言えるんじゃないかな」

「いい指摘ね、ヨシムネくん。ただね、その太陽も、ものすごい速さで動いている。その速さは時速78万キロメールだから、地球の7倍以上のスピードね。とてつもない速さで銀河を公転しているわ。これを見てちょうだい」

サラはスクリーンに映像を映し出した。太陽が彗星のように猛スピードで宇宙空間を移動し、地球と他の惑星たちはそれを追いかけるように、らせんを描きながら太陽の周りを周っている。

「どう? ダイナミックでしょ? これがあなた達が住んでいる宇宙の姿なの。…………宇宙ではすべてのものが動いている。止まっているものなんて一つもないのよ」

ワタシ達3匹は、しばらくの間、きらびやかに動きながら銀河を公転する太陽系を眺めていた。

「友情、家族、仕事やビジネス……いろいろな事が噛み合って、物事がうまく進むことは確かにある。そういう場面に出会うと、それが一生続くと猫は勘違いしてしまうわね。でも……そういう状態はずっとは続かない。なぜかというと、自分も、相手も、取り巻く環境も常に変化しているからよ。何かがうまくいっていたとしても、次の瞬間には変化していて、同じ状態には二度と戻らない。世界は常に変化している………だからこそ、生きていくためには、柔軟に対応できる適応力が必要となってくる。環境の変化に合わせて、自分自身も変化していくのよ。どんな猫にとっても、変化するということはストレスを感じるわね。でも、環境の変化は誰にも止められないの。変化への唯一の対抗手段は、変化を受け入れて、それに適応することよ。いいいかしら、チャビーくん」

「はあ〜、なんか価値観が覆された気がするな〜。ボクの家、地主なんです。動かない確実なものだから不動産と言うんですけど、まさか地球が、あんなスピードでダイナミックに動いてるとは…………地震保険の保険金額をもっと上げたほうがいいのかな〜と不安になりました……

「ふふふ、不安になる必要はないわ。少し力を抜いてリラックスして、自然に委ねるといいわね。古代には理想の生き方を、水に例えて説いた思想家もいる。『最上の善なるあり方は水のようなものだ。水はあらゆる物に恵みを与えながら争うことがない。川を流れる水は、しなやかに方向を変えながら岩を避けるようにして流れていく。水は四角い器に入れれば四角になり、円い器に入れれば円くなる』と言ってるわ。変化を必要以上に怖がる必要はないわよ。変化は受け入れて、自分が適応すればいいだけよ
落ち着いた口調でサラは話し続ける。

「もし、環境変化を受け入れることができなければどうなると思う? 残念だけど、変化を受け入れられない者は生き延びることが出来ないの……。みんな、進化論については聞いたことあるかしら。進化論が教えるところによれば、生物は不変のものではなくて、長い時間をかけて今日の姿に進化してきたとされている。初期の進化論を提唱していた自然科学者はこんなことを言っているわ」

最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である

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「考古学によると、太古の地球ではさまざまな種類の恐竜が繁栄したことが分かっている。2億年以上もの長い期間に渡って、トカゲや鳥のような形をした恐竜たちは地球上で繁栄を謳歌し、地球最強の生物というにふさわしい存在だったと考えらえているわ。しかしその恐竜たちも、突如、地球上から姿を消した。詳しい原因は解明されていないけど、地球に何らかの大きな環境変化があり、恐竜がそれに適応できずに絶滅したという説が有力よ。その環境変化で生き残れたのは、強いものではなく、変化に適応できたものだと考えられている。変化を受け入れるために、私たちが持つべき心構えは『変化できない者は生き残れない』という危機感ね
サラの口調は落ち着いていたが、ワタシの心は落ち着かず尻尾が自然と左右に振れた。

「不安になるようなことを言ってごめんなさいね。でも、見方を変えれば変化はチャンスにもなるわ。生きていればね、自分の力ではどうにもできないことは確かにある。でもね、変化のタイミングをうまく掴んで行動を起こせば、今までどうにもならなかったことでも、自分の望む方向に持っていくことだってできるかもしれないわ。太古の時代は、地球上における恐竜の地位を揺るがすことは不可能だったかもしれないけど、その後の大きな環境変化によって恐竜は絶滅し、今では私たち猫が地球上で繁栄をしているわ。変化が起きることで、既存のルールが変わり、これまでのルールではできなかったことも可能になる。だから、変化はチャンスでもあるのよ。『不幸はナイフのようなものだ。ナイフの刃をつかむと手を切るが、とってをつかめば役に立つ』という小説家の言葉もある。もし何か辛いことがあったとしても、それを切っ掛けとして新しい行動を起こせば、変化をチャンスとして捉えることができる」

変化はチャンスでもある。確かにそうなのかもしれない。ケビンのことがきっかけで、ワタシは寄せ書きを作ろうとした。ワタシが起こした行動がきっかけで、キャッツアイのメンバーが集まるパーティーが開かれることになった……。