8.3 点と点をつなげる

サラは、微笑みかけながら話を続ける。

「では次に、環境変化に対して対応する方法を順に説明していくわね。まず一番最初にやるべきことは『起こっている事実を認める』ということ。こぼれてしまったミルクは決してコップには戻らないわ。いくら後悔をしたとしても過去の事実は変えられない。私たちに出来ることがあるとすれば、そこから何を学ぶかということだけよ。難しいことかもしれないけど、いったん事実を受け入れることができれば、次のステップに進むことができる」
サラは教壇を歩きながら話しを続けている。

「事実を受け入れることができたら、次にやる事は『起きた事実に前向きな意味を持たせること』ね。よく、そんなの意味無いよと言う猫がいるけど、そもそも事実に意味なんてくっついていない。意味というのは、自分がその事実に対して後から付けていくものよ。自分次第で、どんなことでも意味を持つ可能性があるわ。これは私のプライベートな話だけど……」

私の両親は大学の同級生だったの。同じクラスになったことで互いに惹かれあい、パートナーとなった。大学を卒業した後に両親は結婚し、私が産まれたわ。実はね、私の両親はどちらも第1志望の大学に落ちていて、両親が出会ったのは第2志望の大学だったの。もし、両親のどちらかが第1志望の大学に受かっていたとしたら、私はこの世には産まれてない。だから、私の両親が2匹とも第1志望の大学に落ちたことには、大きな意味があった……。想像すると少し恐ろしいわね。事実に意味を持たせる力、文脈力と言えばいいのかしら、物事と物事を結び付けてストーリーを作れる猫は、変化へ適応するのが上手いと思うわ。起きた事実に対して、自分の良い方向で意味づけを行い、新しいストーリーを紡いでいく。それが変化に対応する2つ目の方法ね」

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「3つ目の方法は、事前課題に出した通り、『変化をきっかけとして行動を起こすこと』よ。変化に対して一番効果のある対処法は、とにかく行動をすること。行動した結果、何か1つでも成果が得られれば、その変化は自分にとって良いきっかけだったと意味づけることができるわ。みんな、バタフライ効果というのを聞いたことがあるかしら。蝶の羽ばたきのような小さな出来事が、時間の経過や影響の組み合わせによって、徐々に大きな影響となり、最終的には地球の裏側で竜巻を起すかもしれないという世界観よ。物理学のカオス理論で扱う運動の予測困難性を表現する比喩的な表現ね。何かの変化が起きたとき、それに適応するための最初の一歩は小さくても構わないわ。最初は小さかったとしても前向きに行動すれば、徐々に大きな影響となって、世界を変えていくかもしれない。それに……ヨシムネくん、ジャイロ効果という言葉を知っているかしら」

「はい、コマが廻る時に働く力で、物体が自転運動をする際に姿勢を保とうとする現象ですよね」

「その通りよ。コマ以外でも、ジャイロ効果はいろんなところで見られるわ。自転車の車輪もそうだし、転がるコインでもそう、ヘリコプターのローターでもそうね。高速で回転するものほど、安定させようという力が働くの。さっき宇宙の映像を見ながら、全てのものは変化をしているという話をしたけれど、もし安定が欲しいのであれば、1つだけ方法はある。それは変化に対して、高速で対応し続けること。そうすればジャイロ効果が働いて安定が得られるのよ。なんだか、皮肉よね、安定を得るために、高速で動き続けることが必要だなんて。だから、変化をきっかけとして行動を起こすことはとても大事ね。ネコ美さん、ケビンの件で、ふさぎ込まずにすぐ行動に移していたわよね。あれはすごく良かったと思うわ。その行動が、きっといつの日か、幸運を運んで来てくれるはずよ」

サラはワタシに微笑みかけながら言った。

「そして最後は、『原点に戻って立ち返る』こと。もう一度、自分の自己分析シートを見返して、自分のやりたいこと、現在の自己評価、好き嫌いを思い出す。ライフイベント表を取り出して、もう一度、自分の未来を想像してみる。環境の変化によって、自分の中で変化したものと変化してないものを再確認する。変化が起きたことによって、自己分析シートとライフイベントにも変化があれば、その時点で修正すればいいわ。そして、また目標を設定し、計画を立てて、実行に移していく。変化に適応するというのは、そんなに派手なことじゃないわ。諦めず、地道に、粘り強く取り組んでいくことよ」
そう言いながら、サラはスライドに一文を映し出した。

2匹の猫が牢屋の鉄格子から外を眺めた。 1匹は泥を見た。1匹は星を見た。

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「昔の猫は、星と星を結び、動物や道具などに見立てて、星座を想い描いたわ。さらに星座と神話を結び付けて、物語まで作り上げていた。今の私達にだって出来ないはずはないわ。点と点を結びつけて、ストーリーを作り、変化を積極的に受け入れて、行動に結びつけるのよ。それが変化への適応力よ。いいかしら? じゃあ、これまで話したことをまとめるわね」
そう言って、サラはホワイトボードに書き出した。

【適応力】

1.すべてのものは変化している
安定しているものなどない。太陽ですら動いている
水のようにしなやかに変化に対応する
変化に対応できる者が生き残る
変化はチャンスでもある

2.変化に適応する方法
事実を受け入れる
事実に前向きな意味を持たせる
変化をきっかけとして前向きな行動を起こす
原点に戻って振り返る

「少し早いけど、今日はここまで。後の時間は自習時間にするわ。課題図書を読んでもよし、自己分析シートを見返してもよし、自由に時間を使ってちょうだい」