9.4 抱負

「では、ニャンコ科学部の第1期生として、一言づつ感想を言ってくれ。来年のカリキュラムの参考にさせてもらうからな。まずはヨシムネから」

「渋さん、チャビー、ネコ美。9ヶ月間どうもありがとうございました。講義とディスカッションを通じて、たくさんの学びが得られました。自己分析シートの作成とその後の議論を通じて、自分はメカと宇宙が好きなんだということに改めて気が付きました。また、コミュニケーション力の講義では、他の猫の話を聞く重要性を学びました。僕は論理的・合理的な価値観を好み、問題解決志向でもあるから、他の猫が話していてもすぐに口を挟みたくなってしまうところがあります。ただ、自分1匹の力には限りがあり、何か大きなことを成し遂げようとしたら、自分とは価値観の違う猫にも協力をお願いする必要があるんだということに気付きました。講義を受けてから、意識して自分のコミュニケーション方法を改善するように努めています。大学卒業後は、ロケット開発のスペースM社に就職することが内定しました。スペースM社の設立目標は、火星に猫を到達させることです。僕はそのための設計開発に全力を尽くしたいと考えています。厳しい道のりになるかもしれませんが、この集中講義で学んだことを最大限生かしていきたいです」

力強く将来に向かって話すヨシムネは、希望に満ち溢れていた。チャビーとワタシはエールの意味を込めて拍手をした。

「ボクからもお礼を言いたいです~。長い間ありがとうございました~。講義は毎回、目から鱗が落ちる内容の連続だったな〜。その中でも、強運力、適応力、そして今日の幸福力の講義が印象に残ったです〜。ボクは、もともとリスク回避の傾向が強かったんですが、そのせいでこれまで自分に自信を持てずにいた気がします。もっとリスクを取って、チャレンジをすることができる、恵まれた環境にいるということに気付きました。大学を卒業した後のことについていろいろ考えたんですが~……悩んだ結果、外国の不動産投資にチャレンジすることにしました~。まずは小さく始めて拠点を作り、うまく軌道に乗れば少しづつ広げていきます。同じ不動産と言っても、国内とは言葉も法律も商慣習もまるで違うからすごいチャレンジだよ~、不安でいっぱいさ。でも、ボクは食べることが好きなので、世界各地に自分の持ってる物件があって、そこを拠点に食べ歩きが出来たら、もう最高だよ~。想像しただけでヨダレが出ちゃうな。成功したらみんなも招待するから、ぜひ来てね」

あのチャビーが外国の不動産投資だなんて、大きなチャレンジに一歩を踏み出そうとしている。ヨシムネと一緒に拍手をした。

「それでは最後は……ネコ美じゃな」

ワタシは立ち上がってゆっくりと話し始めた

「渋さん、ヨシムネ、チャビー。今日はいないけど、ケビンさん、サラさん、タイラーさん。9ヶ月間ありがとうございました。各講義の事前課題、講義の内容、その後のディスカッション、そのすべてにおいて、本当にたくさんの学びがありました。思えば、ワタシがこのニャンコ科学部を志望したのは、入学案内のパンフレットにあった『猫は何のために生きるのでしょうか』という1文がきっかけでした。まだ、明確な答えには至っていませんが、これまでの活動を通じて、もやもやが晴れてきた気がしています」

「最初の講義で、渋さんが説明してくれた寿命の話にショックを受けました。猫の平均寿命は15年、約5500日と聞くと、自分に残された時間は短く、本当に貴重だと感じます。あれ以来、残りのメダルを意識し、自分が本当にやりたいことを中心に置いて、毎日を丁寧に生きていきたいと考えるようになりました」

「ケビンさんからもたくさんのことを学びました。失敗を恐れずにチャレンジをしていくこと、自分が想像できる未来が自分の辿り着ける最高到達点なんだということ、そういった言葉に後押しされて、今までの自分だったら尻込みするようなことにもチャレンジできるようになり、自分の成長を感じています」

「サラさんにもお世話になりました。コミュニケーション力の講義を通して、聞くことの重要性にも気付きました。他の猫の話をよく聞き、他の猫の力を引き出し、協力してもらうことで、自分1匹の力ではできないような大きなことも成し遂げられるということも、インターンの経験を通じて理解しました」

「ヨシムネやチャビーとは違い、ワタシは卒業後の進路がまだ決まっていません。ご存じのとおり、キャッツアイのことがあって、ワタシのライフイベント表は白紙に戻りました。変化への適応力が試されている状況です。ただ、不思議と不安は感じていません。いずれ、自分の道が見つかると信じています。今日の講義でも『幸せとは自分の中にあるものだ』と教えてもらいました。自分の中にあるものですから、どこにも逃げないはずです。焦らず落ち着いて、試行錯誤を繰り返しながら、自分の中に幸せを見つけ出したいと思います

ワタシは笑顔で話し続けた。

「もし仕事が見つからなかったとしても、その時はその時です。チャビーに雇ってもらって外国の物件を管理しますよ。ね、チャビー」

「ええ~ プレッシャーかかるなぁ~」

教室がみんなの笑いに包まれた。

「ふむ、これで一連の講義は終わりじゃ。どうもお疲れさん。最後のレポートだが、1回目の講義で作った自己分析シートを振り返り、内容を更新して提出すればオーケーじゃ。期限は来週までにしておくが、そんなに時間もかからんだろう。それじゃあ、卒業記念パーティーで待っとるからな」

*

最後の講義が終わり、ヨシムネとチャビーは帰り支度をしていたが、ワタシは教室に残って最終レポートをやることにした。講義が終わって記憶が鮮明なうちに、振り返りをやっておきたいと思い、自己分析シートを取り出した。

1.どのような自分になりたいか
精神的、経済的に自立した猫でありたい
仕事、家族、地域活動などのバランスが取れている
いつでも機嫌がいい

2.死ぬまでにやりたいこと
25アイスクリームのフレーバーをぜんぶ制覇する
南の島のリゾートで、猫らしくゆっくり過ごす
こまめに毛づくろいしている
猫前で流暢に話すことができるようになる

3.今の自分についての自己評価
引っ込み思案なところがあって、思い切った行動が足りていない
話すのが苦手で、突然話を振られたときに戸惑うことが多い
アイスはクッキー&クリームばかり食べている

4.自分の好き/嫌い
〈好き〉
25アイスクリームのクッキー&クリーム
座面の広いソファ
落ち着いた場所であれこれ考える
知らない猫と知り合いになる
映画を見る、本を読む

〈嫌い〉
すぐ感情的になる猫、態度が偉そうな猫、不機嫌な猫
タバコの煙
海、川、湖
納得しないまま自分をごまかすこと
睡眠不足

改めて見直してみたところ、想像していたほどの変化はなかった。好きなものは相変わらず好きだし、やりたいこともあんまり変わっていない。でも、自己評価については大きく変わっていた。変更があった思われる箇所について、自己分析シートに追記した。

2.死ぬまでにやりたいこと
猫前で流暢に話すことができるようになる
 →自分が流暢に話す必要はない。うまく聞ければ会話は盛り上がる

3.今の自分の自己評価
引っ込み思案なところがあって、思い切った行動が足りていない
 → 思い切った行動ができるようになった

話すのが苦手で、突然話を振られたときに戸惑うことが多い
 → 話すのが苦手でも構わない。聞き上手になれればそれでいい

アイスはクッキー&クリームばかり食べている
 → それの何が悪い。クッキー&クリームは私の幸せ

自己分析シートの見直しが終わり、帰り支度をしている時だった。

突然、ミャオフォンから呼び出し音が鳴った。手に取ってディスプレイを見ると、見知らぬ番号から電話が掛かってきて、けたたましく着信音が教室内に響き渡った。

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